青と黄と笠






中学の卒業式の日。

黄瀬は青峰と中学最後の1on1をしていた。

今度は違う高校に入り、敵として相対するのだ。

夢中になり、すでに夕暮れ時だった。

片付けのため、二人して用具室へと入る。

その瞬間、青峰の手が黄瀬の手を突然、掴んだ。

そして、床へと押し倒される。

「あ、青峰っち…?」

黄瀬の問いかけにも答えず、青峰は黄瀬のTシャツをめくるとそのまま手に縛り、自由を奪った。

そして、抵抗しつづける黄瀬を青峰はそのまま、無理やり犯した。

青峰は終始何も言わず、ただ、黄瀬の名を呼ぶだけだった。

黄瀬は憧れで、多分好きだったと思われる同姓のそんな行為にショックを受けていた。

言葉も出てこなかった。

青峰は呆然としている黄瀬に構わず、立ち上がると一言いった。

「…悪ぃ…」

用具室の扉が開く音がして、青峰はその場から立ち去っていった。

「何スか…それ…」

用具室の天井を見つめながら、黄瀬は頬から涙が流れるのを感じていた。





「よし、今日はここまで!」

監督の声とともに、お疲れ様でした。の声が体育館に響く。

黄瀬は汗を拭いていると、後ろから笠松の声が黄瀬を呼ぶ声が聞こえる。

「黄瀬、今日は俺と片付け当番だ」

黄瀬はそういわれ、思い出すと、スミマセン。といって片付けを始める。

黄瀬目当てのギャラリーの大半は帰り、まだ何人かは残っていた。

黄瀬はそのファンの子に手を振りながら、片付けをしている。

「黄瀬、真面目にやれっ!」

そのたびに笠松に怒られていた。

片付けも終わり、黄瀬と笠松は何か食べて帰ろうということで駅前のバーガーショップへと入る。

夕方も近いということで、かなりの客がいたが二人は二階の窓際に座る。

笠松には黄瀬に対してどうしても気になることがあった。

最近の黄瀬の様子だった。

美味しそうにバーガーをほお張る黄瀬に笠松は静かに聞く。

「青峰と何かあったのか?」

笠松は単刀直入に切り出すと一瞬、黄瀬の手が止まった。

「何スか、センパイ、突然? それよりも食べないと冷めちゃうっスよ」

黄瀬は話をはぐらかし、話題を変えようとする。明らかに動揺していた。

「話したくないならそれでいい。他の奴らは気づいてないみたいだが、
青峰の話が出ると途端に口数が減るだろ」

笠松はそういいながら、自分もバーガーを口にする。

「…そうスよね、俺がこんなだと試合に響きますよね」

黄瀬は遠くを見つめながら、バーガーを食べる。

口の中に広がる味が、無味に感じた。

無言で食事する二人が食べ終わったときには夕方になっていた。

会話もなく、気まずい雰囲気が続く中、二人は別れた。

黄瀬から答えを聞くこともできなかった笠松は黄瀬の後ろ姿を見送った。




次の日、監督から今度、桐皇学園との練習試合をする旨が伝えられた。

笠松は黄瀬の顔色をうかがうと、少し沈んだ顔色の黄瀬が立っていた。

それを見ながら笠松ははぁ〜と小さく溜息を吐いた。






桐皇学園との練習試合は接戦だったが、負けた。

黄瀬が本調子ではなかったものの、最後までよく頑張ってくれた。

ロッカーに戻る笠松は青峰に声をかけた。

「話がある」

青峰は俺にはねーよ。といわんばかりの顔でめんどくせーといった。

「黄瀬のことだ」

黄瀬の名をだしたとたん、青峰の顔色が一瞬変わるのを笠松は見逃さなかった。

青峰は返事をしなかったが、笠松と一緒に体育館を出て行く。

その二人の様子を黄瀬は遠くから見つめていた。



体育館の裏手に笠松と青峰が立つ。

「で、話って何だ?」

青峰はそういってから、黄瀬のことだったな。と付け足した。

「つうか、センパイ、黄瀬の何?アイツと付き合ってんの?」

青峰は冗談交じりにそう笠松に言ったが、当の笠松は青峰を睨んだ。

「黄瀬は後輩で俺の一番大事なヤツだ。アイツを悲しませる奴は俺は許さねー」

笠松は静かにそう言った。

クス。と青峰は笑みをこぼした。

「言うね、センパイ。じゃぁ、俺はその一人ってことか」

「どういうことだ…」

その二人の様子を見に来た黄瀬はそこに漂う緊張感に思わず息を呑んだ。

「青峰っち、笠松センパイ」

その声に青峰と笠松は一斉に黄瀬のほうに振り向いた。

「青峰っち、それ以上言わー」

黄瀬は青峰の言葉を制しようとしていた。

「黄瀬、センパイも聞きたがってるし、いいだろ」

青峰は黄瀬を見た後、笠松を見た。

「卒業式の日、黄瀬を無理矢理犯した。それだけだ」

その言葉に笠松は青峰を殴っていた。

「黄瀬、行くぞ」

笠松はこぶしを震わせながら、黄瀬を連れ立ってその場から立ち去った。

黄瀬は殴られた青峰を気にしてか、何回か振り向いていたが、

青峰hうつむいていたため、その表情は見えなかった。

「ダセェ…」

青峰はそうつぶやいた。




「センパイ…」

黄瀬は椅子に座る終始無言の笠松に声をかけた。が、笠松は答えない。

それは海常高校へ戻っても同じだった。

ロッカー室で黄瀬は笠松に声を再び声をかけた。

他には誰もいない。

「…センパイ」

やはり、返事はない。

「センパイ、俺嬉しかったス。あの時、
『黄瀬は後輩で俺の一番大事なヤツだ。アイツを悲しませる奴は俺は許さねー』って
言ってくれたこと…」

ほとんどひとりごとのように黄瀬は答えない笠松に言葉を続けた。

「…まったく、空気読めよ、黄瀬」

突然の笠松の声に黄瀬はへっ?と驚いた。

笠松は黄瀬の前に立ち上がると、ふんわりと抱きしめた。

「センパイ?」

「俺にはお前はただの後輩じゃない…つうか、ただの後輩ってだけであんなことできるか!」

笠松は抱きしめた肩を戻し、呆ける黄瀬にツッコミを入れる。

「センパイ、ただの後輩を連呼しすぎっスよ」

「うるさい。つうか、俺はお前が好きだってことだ」

急に恥ずかしくなったのか、笠松はそういって、そっぽを向いた。

「センパイ、実は俺も好きなんスよ…」

クスと笑みをこぼして、黄瀬はさらっと返した。

それに笠松はカチンと来たようで、先に言えー!と黄瀬を殴った。

「黄瀬、好きだぜ。俺はお前を悲しませねーからな」

笠松は再び黄瀬を抱きしめた。






そのころ、青峰は街中を歩いていた。

笠松に殴られた顔がすこし痛かったが。

「青峰くん」

背後から声がして、視線を送ると黒子テツヤが経っていた。

「テツ」

「青峰くんも素直じゃないですね。好きなら好きといえばいいじゃないですか」

黒子はサラリというと、青峰は口を歪ませる。

「お前、いつから気づいてた?」

「ずっと見てました。あの日も」








おしまい